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皇帝が神として崇められていた時代に生まれた初期キリスト教美術。布教のために発展した芸術は、現代まで残っている作品が多くありません。政治的・経済的迫害を受けながら、信仰という思いの元に受け継がれた芸術は、キリストを想像させるモチーフ(モノグラム)を生み、モザイク画へと発展していきました。
キリスト教が社会を支配している中世ヨーロッパにおいて、教会の鐘の音で朝をはじめ、安息日に祈りを捧げるのは当然のことでした。教会は祈る場所としての役割だけでなく、商取引や裁判を行う場所としての役割も果たすほど神聖な場として浸透していました。
キリスト教を主軸とした社会が確立されたのには、キリスト教が国教化されたことに加え、ローマ教皇の思想とフランク王国が結びついたことも大きな影響を及ぼしています。キリスト教は国際宗教として発展していきましたが、旧約聖書の中で神の顔を見ることが禁忌とされていたため、宗教美術は広まりませんでした。
ところが、アルプス以北のヨーロッパには読み書きができない人々が暮らしており、そのような人々に聖書を説明するために、物語を絵で表現する試みが始まりました。これにより「目で見る聖書」を作るために宗教美術の需要が高まったのです。
キリスト教が後任されたのは、313年のミラノ勅令が出されたときのこと。キリスト美術が大きく発展するのは公認後ですが、それ以前の時代にも同墓地(カタコンベ)や石棺などに「キリスト美術」と呼ばれるものが描かれていました。
キリスト教後任以前に描かれていたものの例として「羊飼い」の図像があります。この図像には死後の永遠の生命への願いが込められており、キリストが自らに重ねた良い羊飼いのイメージを借用して描かれました。このようにキリスト教を彷彿させるイメージを借用した美術もあれば、独自のイメージを描いたものもあります。
例えば「魚」。魚はキリストを象徴する生物であり、魚をギリシャ語で表すと「イエス・キリスト、神の子、救世主」の頭文字になります。魚はいわばキリスト教徒にとって隠れシンボルであり、キリスト教が弾圧されていたキリスト教後任以前にも複数宗教美術が作られています。
残念ながら、初期キリスト教美術の作品はあまり遺っていません。以下で紹介するのは、代表作というより遺っている作品になります。まず「パンを祝福する羊」。こちらの作品は4世紀半にローマのコモディッラのカタコンベに描かれた作品です。
そして「会食の図」。こちらの作品は3世紀後半に描かれた作品で、ローマのサン・カリストのカタコンベにて見つかりました。なお、初期キリスト教美術の建築物として知られているのが、「サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂」。431年にローマで造られました。
初期キリスト教美術が作られた時代は、ローマ帝国を皇帝が支配する時代でした。皇帝が神的存在である国家において、キリストのみが神であり、キリスト以外のものを神と認めないキリスト教は不安因子でした。そのためキリスト教は迫害されたのです。
しかし、教徒たちは諦めず、ひっそりとカタコンベと呼ばれる地下墓所に絵を描きました。弾圧者たちにキリスト教を信仰していることがバレないよう、間接的に描いているのが特徴的。初期キリスト教美術のモチーフ「モノグラム」はキリスト教をイメージさせるものであり、羊飼いや魚、パン、儀式の場面や祝福のポーズなどが一例です。