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美大受験において合否を左右するのは、実技試験です。そのため、美大受験者は美術予備校でデッサンの練習を重ねます。しかし実技試験は「絵を描くのが上手い」というポイントだけで合否を判断するものではありません。基礎的な力が備わっているかを見るために、大学側はさまざまな視点で完成された作品を見るのです。ここでは、実技試験を突破するために知っておきたいコツを紹介します。
美大の実技試験は大学にもよりますが、多くの場合、「デッサン」と「専攻別課題」の2科目が課されます。配点はそれぞれ150点ずつ。合わせて300点です。
デッサンは「素描課題」と呼ばれることもあります。素描は、鉛筆や木炭などを使い単色の線で絵を描くことです。彩色をほどこすことなく、すべて輪郭線のみで描き、デッサン対象の特徴を表現します。実技試験では、デッサンするための描画材とモチーフは指定となります。課題のモチーフは、(人間の)「手」や「石膏像」、「静物」、「動物」などさまざまです。
採点基準は基礎的なデッサン力の有無です。個性やアイデアを多用するより、基本的な描写力を発揮して、全体の構図を考えながらバランスよく仕上げることが、高評価を受けるポイントになります。高度なテクニックではなく、基礎的な力を身に付けているかどうかが、合否の分かれ目になるでしょう。
専攻別実技課題は、文字通り自分が先行した分野から課題が出題される実技試験です。デザイン科を専攻した場合は「色彩構成」「立体構成」、日本画を専攻した場合は「水彩画」、油画科専攻なら「油彩画」といった具合に、それぞれ専攻別に出題されるテーマに取り組みます。
専攻別実技課題でもデッサンと同じように、基本的な能力(絵具の使い方・色彩感覚など)が評価されますが、その一方、「個性」「創造力」「アイデア」「センス」なども評価基準となります。基礎的な実力と独創性。その両者をバランスよく兼ね備えていることが、試験クリアのポイントです。
センター試験対策でよく聞くようなポイントですが、美大受験の実技試験においても同様のことが言えます。
近年、視覚伝達デザイン学科や基礎デザイン学科、デザイン情報学科等の入学試験の問題文には「条件」「設定」というものが多く使用されています。これをしっかりと把握した上で、取り組まないと、出題意図とは異なる作品を提出してしまうことになる可能性もあるので、注意が必要です。
例としてあげると、武蔵野美術大学の実技試験では条件として、「天地の矢印を描きなさい」と書かれていることがよくあります。この場合、作品の上手い下手に関わらず、必ず提出する作品に天地の矢印が描かれていなければ減点対象になってしまうのです。
凡ミスによる減点を防ぐためにも、問題の内容を把握することはとても大事なのです。
美大の実技試験で意外と多いのが「机上のモチーフをデッサンしなさい。」というシンプルな出題。この場合、自分がいる場所から見える通り忠実にモチーフを描くだけでは、残念ながら合格することができません。
この出題の目的は、「どのように対象の特徴を捉えているか?忠実に形や質感や量感等を再現し、構図が優れたものであるか?」などの受験者の「観察力」「基礎デッサン力」「描写力」などを見ること。
また、最近では「自由に描きなさい」という出題をされることがあります。ついつい、見たまま描いてしまいそうですが、実は、「見たままを描くのではなく、受験者がモチーフとなる現象・印象をどのように解釈するか。また、どのように発展させるか」を実技試験で見ているのです。
つまり、今の美大の実技試験においては、「問題文に隠されたヒントを探し出し、そこから自分なりに発想を広げて、描くことで表現する。」ことが求められているのです この出題の意図を理解して、表現できる人を大学が求めている人材であり、そのような人のためのカリキュラムが用意されているということでもあります。
美大の実技試験における採点の仕方は、全ての美大で一律ではありません。特に倍率の高い難関美大と倍率の低い美大では、大きな違いがあります。
倍率の高い難関美大を受ける受験生の特徴は、基礎力を身につけている受験生が多いことです。競争の激しい難関美大に入るには並々ならぬ努力を必要とし、与えられた時間をフルに活用して対策を行い、十分な基礎力を養っておかなければなりません。
その結果、難関美大の実技試験の場合は、基礎力を身につけた受験生が定員の数を上回る形となり、基礎力レベルを評価基準とする選考が可能になります。受験生の多くが基礎力を身につけているため、それを公平な評価基準として設定しやすいのです。
しかし基礎力を身につけていない受験生が多い大学の場合は、こうはいきません。
難関美大とはうって変わって、倍率の低い美大の場合は、受験生の多くが基礎力を十分に身につけていません。そのため、基礎力を身につけていない受験生が定員を割り込む形となり、基礎力をもって公平な評価基準とすることができなくなります。
基礎力で評価すれば定員を満たせない可能性が高いので、基礎力以外の要素で採点する必要があるのです。この点が、倍率の高い美大とそうでない美大の大きな違いです。倍率の低い大学で定員割れする場合は、受験生を作品で評価するケースは少ないでしょう。健康問題等よほどの事情がない限り、ほとんどの受験生が合格します。
美大における入試の採点方法は、大きく「ギャランティー型」と「ベストフォート型」の2つに分類できます。いずれもインターネット回線プランの種類を表す用語として通信サービスの世界ではおなじみです。実技の採点方法に適用した場合は、それぞれ以下のような特徴と違いがあります。
ギャランティー型は、通信サービスプランで適用される場合は、契約した回線速度が保証されることを意味します。ギャランティ型で契約すれば、契約した通信速度に関しては保証されているので、回線が混雑した場合でも速度低下する心配がありません。これを美大入試の採点方法に当てはめれば、大学側が「合格水準を任意に設定して保証する」という意味になります。例えば、合格水準を「80点」に設定したとしたら、80点未満の人は全員不合格ですが、80点以上の人は全員合格になる仕組みです。ギャランティー型では、ある大学に合格できる水準が定量的(数量的)に保証されているため、その水準をクリアすれば確実に合格できます。一方、合格水準に達しなかった場合は、仮に定員割れした状況でも絶対に不合格になるという、安心感と厳格さの両面を併せ持った制度といえます。
ベストエフォート型は、ネット回線プランでいえば、契約した回線の通信速度が保証されないことを意味します。通信速度の数値は努力目標として設定されますが、保証ではないので、回線混雑状況によっては速度が低下してしまうことは避けられません。これを大学入試の採点方法に当てはめれば、大学側が「絶対的な合格水準を設定しない」ことを意味します。むしろ、その年の受験生の実力レベルに合わせて合格水準を設定し、実力によって定員割れが起きないようにするのが、ベストエフォート型の特徴です。ベストエフォート型では、定員を超える数の受験生がいれば定員割れする心配はありません。