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19世紀のフランスではじまった、現実をありのままに捉えて表現しようとする美術上・文学上の主張のことです。
英語では「リアリズム」と言い、自然主義とも呼ばれることがあります。
ここで言う「写実」とは、絵のタッチや色彩が写実的というわけではありません。
歴史や神話などを想像して描くのではなく、ありのままの現実を客観的に写し取って表現する、という意味での写実です。
現実を率直に、そして正確に描き出す作品は、それまでの神話や聖書をテーマにした幻想的な芸術の在り方に異を唱え、それらと区別するためにはじまった動きでした。
写実主義が登場する以前のヨーロッパにおいて、絵画と言えば聖書や神話に出てくる登場人物やワンシーンを描くことが通例でした。画家は神や天使、登場人物や歴史的なシーンを、想像で描いていたのです。
18世紀末にロマン主義が登場して以降、これまでの絵画の在り方に対して異を唱える芸術家たちが現われました。
「目に見えないものは描けない」と主張し、現実の世界だけを見たままに描くことをはじめます。宗教や神話、歴史画で成り立っていた当時の芸術界では、この動きは非常に画期的で、以降の芸術家たちにも大きな影響を与えました。
何より自然で写実的な表現は人々に受け入れられ、新しい時代の潮流となっていきます。
写実主義では、遠近法や具象性、色彩や光などを緻密に描写する表現が見られます。
画家が目にした日常のワンシーンをそのまま切り取ったような作品が多く、実際の風景やそこに溶け込む人々のリアルな生活の様子が描かれています。
また、都市よりも農村などをモチーフとすることが多く、牧歌的で飾らない自然体のスタイルが特徴です。
これは、神話や聖書、過去の歴史上の出来事を想像で描いた幻想的な芸術と区別するためにあえて現実が強調されていると同時に、残虐な事件や政治的な出来事を描くロマン主義を否定する形としても現れています。
写実主義を代表する画家のひとりが、レアリズム宣言を掲げたギュスターヴ・クールベです。「天使は見えないから描かない」という彼の言葉は有名で、「石割り」「エトルタの崖、嵐のあと」「オルナンの埋葬」「出会い」など、数多くの写実的な作品をのこしています。
そして、今も世界的に知られる作品がジャン・フランソワ・ミレーの「落穂ひろい」や「晩鐘」です。ミレーは農村の暮らしの様子をありのままに描いたことから、自然主義とも言われました。これらの作風は、後のゴッホや印象派の画家たちにも大きく影響を与えています。
他にもジュール・ブルトンは「ヒバリの歌」「小さい仕立て屋」、「労働日の終わり」、ジュール・バスティアン・ルパージュの「ジャガイモの収穫」「干し草」など、写実主義には、フランスの農村部の女性たちの暮らしを描いた作品が多くのこされています。