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石膏デッサンの場合、石膏像を見たまま陰影をつけて描けば良いのですが、静物デッサンの場合はモチーフごとに色や質感、反射などの要素を描き分ける必要があります。ただ単に明暗のトーンをつけるだけでは質感を上手く表すことはできません。質感を出すには、「鉛筆の硬さの選定」や「明度」と「彩度」を調整できるかがポイントです。
ここではデッサンにおける質感の描き方について解説します。
早い段階で絵の全体を擦ってしまうと質感が表現できなくなります。モチーフの材質を見極めて適切な鉛筆を選び、さまざまなタッチを使い分け明度差をつけて描くことで、よりリアルな質感を表現できるでしょう。
モチーフによって異なる質感をどのように描き分ければ良いのか、ここで押さえておきましょう。
デッサンの実技試験では「筆」や「刷毛」をモチーフとして出題されることが少なくありません。
毛は、顕微鏡で見ると円柱のような形をしています。つまり筆や刷毛は「細い円柱形が集まったもの」と考えると描きやすくなるでしょう。円柱が束になっている、つまり一本一本の毛が重なる部分を濃く塗ることで、毛の質感を表現できます。
一本一本の毛を描くことに意識を向けすぎると、モチーフ全体の形を捉えることが疎かになってしまうため、陰影をしっかり描いて立体感を出すことを優先させるように意識してください。
刷毛を描く手順の一例を紹介します。毛が密集したものを描くにはコツがいるので、この記事を参考に、他のモチーフを描く際の参考にしてください。
試験で刷毛の1本1本を描いていては、とても時間が足りません。まず、毛束をひとまとまりのものとして考えて描きましょう。
絵の具を塗る平たい刷毛なら長方形、書道の筆のように先が細くなるものは円錐として大枠の形をとらえ、下書きとします。
ある程度を一括りに描けたら、光が当たっている部分と影の部分に注目します。
光の当たる部分は薄く塗り、影の部分は少し濃くして大まかに塗ります。指などで境界線をぼかしてグラデーションをつけましょう。
毛先の影や毛束は、Bの鉛筆を使って点描をするか短い線で表現します。明るい部分は練り消しでつつくようにして白さを出すように微調整をしましょう。
影の薄い・濃いにかかわらず、鉛筆は垂直に立てて持ち、筆の向きに合わせて真っ直ぐ引くようにして描きます。明るい部分はH系、影の部分はB系の鉛筆を使うのがおすすめです。
刷毛の下にできる影は、1番濃い色の鉛筆で毛先と同化しないように注意して描きます。
使用感のある刷毛の毛先は広がっていく、新しい筆は硬そうなど、同じ刷毛でもさまざまな状態や質感があるので、色々な筆を書きながら感覚をつかんでいきましょう。
アルミホイルも入試で出題されることの多いモチーフ。アルミホイルは明るい部分と暗い部分のコントラストをハッキリと描き分けることが重要です。ベースはB〜5Bくらいの柔らかい鉛筆を立てて使い、濃く塗ることがポイント。その後、HB〜4Bの硬い鉛筆で輪郭を整えながら、アルミのギラつく感じを表現します。映り込みも忘れずに描きましょう。
ちなみにコントラストを和らげように意識して描くと、ラップやビニール袋の質感を描く際に応用できます。
シワが多かったり、あちこちに光が反射していたり、描き込んでいくうちに途方に暮れてしまいそうなモチーフ、アルミホイル。ここではアルミホイルの描き方の一例を紹介しています。
アルミホイルはシワが無数にあり、反射と影が複雑です。やみくもに描き始めるとどこから描いたかわからなくなるため、まずは面積の大きい部分に注目しましょう。
面積が大きい部分に薄く線を描いて縁取りするように描き、その後に細かい部分の縁取りをしていきます。
次に反射で真っ白な部分、影で真っ黒な部分の対比を表現していきます。アルミホイルは全体的にグレーではありますが、先に全体に灰色を付けてしまうと、印象がぼやけてしまいます。下書きの段階では灰色で濃淡をつけるにとどめ、ある程度筆が進んでから陰影を重ねていくようにしましょう。
明るさを出したい部分はティッシュや練り消しで調整し、コントラストをぱきっとだすことでアルミホイル特有のぎらつきを表します。
アルミホイルのそばに別なモチーフを置いている場合、アルミホイルに映り込みが生じます。シワを描くだけでも大変ですが、試験の場合は写り込みの表現も意識しましょう。
モチーフのどの部分が、アルミホイルのどの部分に、どのように映り込んでいるのか、モチーフの位置関係を詳細に観察して、映り込みの表現をしましょう。
アルミホイルのシワが多ければ多いほど、描くのに時間がかかってしまいます。試験では時間不足となってしまいますので、自分でモチーフを調整できる場合は、できるだけシワを少なめにするのも一つの手です。
あまりに平坦すぎてアルミホイルらしく映らない場合は、部分的なシワを作って変化を作りましょう。
一番身近なモチーフとして多用される「手」。まず自分の手をじっくり観察してみましょう。細かい縦横の線やシワがたくさんあります。手の質感は見たままの皮膚の状態を描くだけでOK。濃い目に描いても問題ありません。コツは線やシワを少し見えるように描くことです。
モチーフを観察することはデッサンを描く上で大切ですが、手の場合は関節をポイントとして意識しながら「骨格」を考えるようにしてください。
手のデッサンの失敗例として第一関節がないデッサン、骨格が描けていないものがあります。
最初に手の輪郭線をとったり、表面的な手の質感や肉付き、シワなどを描き込だりするのではなく、関節と骨格をポイントとして形どっていきます。練習ではモチーフにする手の関節に印をつけて観察すると、わかりやすくなるでしょう。
次に、指と指、手の甲との比率と位置関係を見ていきましょう。自分の手を描く場合でも客観的に関節を意識して形を見ることで、バランスよく手全体を把握できます。
慣れないうちに輪郭からなぞるように描くと、形が歪んだり、指の長さと手のひらが繋がって見えなかったりと、不自然なものになってしまいます。
形が決まったら影をのせていきましょう。この時一気に1番黒い部分を決めるつもりで1番黒い影からのせるのがコツ。既に外形がおおまかにできているので、迷わず濃い黒を乗せます。
薄く塗り重ねると時間がかかってしまうので、試験などではこの手順が有効です。
1番暗い影をのせたら、陰影を4段階の色で付けます。「明・中・暗・反射」4つのどれをどこに塗るか面を分けて色を重ねましょう。
3段階で塗り分けるより、反射まで意識した4段階にした方が、デッサンの序盤から手の丸みを表現でき、奥行きを表せます。
4段階の色に描き分けたら、さらに各面の間の面を描き分けていき、最終的に10段階の色にします。これだけの色の差があればかなり自然な明暗の表現ができ、手の形が滑らかに見えるようになるでしょう。
難易度が上がり、作業中の手や物を持っている手など手以外のモチーフを合わせて描く場合、「手だけ」「物だけ」を描き込んでいってしまうと、この二つのバランスを調整するのが難しくなってしまいます。物を一緒に描く場合は、物と手、関節の位置関係がずれると不自然な仕上がりになるので、部分的に描きすすめず、全体を同時に進めていくように意識しましょう。
白い紙コップは影を塗りすぎると鉄のような質感に見えてしまい、紙コップの質感から離れてしまいます。紙コップを表現するには、基本的にHB以上の硬い鉛筆を立てて使い、線を重ねて密度を高めていくイメージで描きましょう。
刷毛の描き方と似ていますが、縄やロープの場合は、結び目の影をしっかり描くことがポイントです。
石はゴツゴツとしたものやツルツルとした表面のもの、シャープな角度を持つものなど、さまざまなタイプがあり、見る角度によっても印象が変わるため絵描きにとって面白いモチーフの一つでもあります。
下描きは3Bくらいの鉛筆を使いましょう。石のデッサンでは面の変わり目や形を正確に理解することが大切。彩度の低い陰影はティッシュなどで擦って表現します。細部を描く際はHBやFなどの鉛筆を立てて使えば、石の硬さを表せるでしょう。いろいろな方向からタッチを加え、ゴツゴツとした石の表面に仕上げていきましょう。
コップやマグカップなどのモチーフは、斜め上から見たときの外側と内側の楕円形のズレを意識しながら描くことがポイントです。楕円にズレがないとデッサンが狂って不自然な絵になってしまうため注意してください。
二重楕円をうまく描くコツは、先に円柱を描き、内側の楕円の長軸を少し後ろにズラして描くこと。穴の部分は回り込むほど密度を高くして、奥行きが出るように描きましょう。
ティーカップなどの陶器製のモチーフは反射率が高く、モチーフの周りにある物や床がモチーフの一部分に映り込みます。その映り込みをしっかり描くことで、陶器の質感を表現できます。
また縁や持ち手などの部分は、明るい色と暗い色をぶつけることで光沢感が出て、それらしい質感になります。
モチーフの陰の部分はHより硬い鉛筆で明暗を描く前に、Bくらいの硬さの鉛筆で塗り擦っておくことで、最終的にボサボサ感が出ず、陶器らしい硬い印象に仕上げられます。
テープ類やキッチンペーパーなどの巻いているモチーフの場合は、巻いている方向が分かる線を入れると質感が出ます。巻き終わり部分も丁寧に描きましょう。
りんごの皮はツルツルとして少し光沢感があります。ハイライトは上部に入れましょう。映り込みも忘れずに描いてください。
りんごの赤は明度が低い色なので、鉛筆デッサンでは全体的に色をつけることになります。黄や緑に変色している部分がある場合はその微妙なニュアンスを自然に描けると良いでしょう。また斑点や筋なども、りんごらしさを表現する大切な情報になります。
光沢のある部分は硬い鉛筆で描きましょう。全体の質感は、Bくらいの鉛筆を使って描きます。柔らかすぎる鉛筆を使うとざらついた印象になるため、描く部分の質感を見極めながら鉛筆を選定して描きましょう。
思わず触りたくなるような、「ふかふか」「もこもこ」とした柔らかさを表現するよう心がけます。服を着ている場合布の皺やボタンなどを描き、わずかな皺ができている点を見逃さないようにしましょう。縫い目の表現もポイントです。ボタンなどの素材の異なるものを描き分けることで、布の質感をより際立たせることができます。
タオル地のような素材で作られたぬいぐるみは、B〜3Bの柔らかい鉛筆を使って描きましょう。ハイライトの部分は、Hなどの硬い鉛筆を使うと良いです。滑らかな布地の場合も、B前後の鉛筆がおすすめです。
花や植物の構造をしっかり理解した上で、花びらや葉の自在に変化する形を捉えながら描くことがポイントです。立体感を表現するには、「ハッチング」を使いましょう。細かいタッチで丁寧に描き、立体感を出していきます。
繊細な表現が必要なモチーフなので、Hくらいの硬い鉛筆で描いていきましょう。陰の部分をハッキリと描くのがポイントです。
周りにある物の映り込みをしっかり表現することがポイントです。特に「光」の映り込みは大事な要素。ハイライトはキラリと光るように入れ、反対に暗い部分には濃い黒を入れて全体の印象を引き締めます。
ペットボトルは、口の部分や底などの形が変わるところを特に丁寧に描きましょう。ペットボトルは透明な素材なので、キャップやラベル、床の影などを正確に表現することで、モチーフ全体の存在感がアップします。
コーヒーのように色の濃い液体が入っているものは柔らかい鉛筆を使って塗り込みましょう。ペットボトルは光沢感のある硬い素材なので、柔らかい鉛筆を使った時に出るボサボサとした印象を残さないことがポイントです。基本的には硬い鉛筆で画用紙にしっかり色を塗り込むように描きます。
コップや浮き玉などのガラス製のモチーフは、周りにある物を反射するため映り込みを描くことがポイントになります。プラスチック製のモチーフと同様に、電球などの「光」の映り込みを入れるのがミソ。ハイライトと暗い色をぶつけることで、キラリと輝いた印象が出てガラスらしい質感を表現できます。コップの場合は縁や底の部分を注意深く描きましょう。
ガラス製のモチーフは影の部分にも光沢と透明感を描くことで、見る人に全体の質感をより強く印象付けられます。基本的に硬い鉛筆を用いるとつるりとした質感に仕上げられますが、ガラスに濃い色がついているものの場合は、柔らかい鉛筆で塗り込むと良いでしょう。
球体や立方体、円柱、円錐などの基本的な形に質感をプラスすることで、デッサンは概ね完成します。
どんな形のモチーフでも、光と陰影、反射の関係は同じです。これらを上手く取り入れられれば立体感が表現できます。
質感の表現力を習得するには、さまざまな質感の素材をモチーフにして、デッサンを重ねる以外に方法はありません。どう表現すればそのモチーフの質感になるのかをじっくり考えながら実践を繰り返していくことで、質感の描き方をつかんでいきましょう。