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ロマン主義とは、18世紀末から19世紀の前半にかけてヨーロッパで生まれた精神運動です。
絵画や美術などの視覚的アートだけでなく、文学や音楽、演劇などのさまざまな表現で見られました。
フランス革命時代の新古典主義に反する表現として生まれたもので、新古典主義とは対義的に、自分自身の感性や個性から生み出される多様な美しさを主張するスタイル。
神話や宗教をもとに描かれる新古典主義に対して、現実世界の風景や事件など、作者の描きたいものを描くのが大きな特徴で、これまで表現が抑制されていたアーティストたちの感情が発露しました。
ナポレオンが失脚した後も、新古典主義が消えたわけではありません。線をはっきりと描く合理的で理性的な絵画は存在していました。
ただ、神話や宗教を描いてきた新古典主義の画家テオドール・ジェリコーが、当時、実際にあった事件を題材にした作品をサロン・ド・パリで発表して以降、一気に注目されるようになりました。
その後、ジェリコーのロマン主義を受け継いだ弟子のドラクロアによって、ロマン主義は完全に確立されます。これまで新古典主義の第一線として活躍していた画家アングルはドラクロアと対立しますが、ドラクロアの表現が政府や国民にも大絶賛されました。それ以降、ロマン主義は表現の枠を広げた芸術として人々に完全に受け入れられていきます。
これまで聖書や神話を主題とした歴史画がもとになっていた古典主義や新古典主義では、庶民の日常や実際の出来事を表現した風俗画は、最下位に位置付けられていました。
ところが、ロマン主義が受け入れられて以降、特に19世紀に入ってからは、人々の生活や実際の出来事を題材にした作品や画家の内なる感情を表現したアートが主流となっていきます。
ロマン主義は、まさに近代絵画のはじまりとなった運動とも言えるのです。
ロマン主義では、聖書や神話の代わりに時事的な事件やエピソードを題材にした、写実的でありながら作家の内なる感情を自由に表現した絵画が多い傾向にあります。また、オリエント風など、異国を表現した作品も多いです。
まず挙げられるのが、ロマン主義の萌芽とも言われるテオドール・ジェリコーの「メデューズ号の筏(いかだ)」です。フランスの軍艦が沈没した実話を題材としたもので、当時のサロンに衝撃を与えました。
また、ジェリコーの弟子であり、ロマン主義を確立したと言われるドラクロアの「キオス島の虐殺」や「アルジェの女たち」もロマン主義の代表と言える作品です。政治的なメッセージが込められたキオス島の虐殺やリアルな日常をドラマティックな構図で表現したこれらの作品は、政府が買い上げたほど当時から高く評価されました。